今から二百年程前―――
ミュー大陸を闇と恐怖で覆い尽くそうとする者が現れました。クンドンと名乗るその男は、冥界の王と手を結ぶことによって強大な魔力を得、自らを『冥王』
と称し、大陸全土を我が物にしようとしていました。
そんな頃、エルフが住むノリアの里にルナという一人の少女がおりました。彼女は弓の名手で、その腕前は里一番と謳われる程でした。
ある日、ルナの前に白い衣を纏った美しい女性が現れこう言いました。
「私は、女神パルテナ。
ルナよ、そなたはミュー大陸に光をもたらす救世主の一人。
そなたに私の力を授けましょう。」
そう言ってぱっと辺りが光り輝いたかと思うと、女神パルテナの姿はどこにもいませんでした。そして驚くことに、ルナはまばゆい白銀の鎧を身に纏い、手に
は目が眩むほどに輝く弓が握られていたのです。
どこからか女神パルテナの声が聞こえてきました。
「ルナよ、その女神の力をもって人間界へ赴きなさい。
そして仲間と力を合わせ、ミュー大陸に再び平和を取り戻すのです。」
そもそも人間とエルフは、同じ大陸で暮らしていても決して交流はありませんでした。
何故なら古来より、人間とエルフとの世界の狭間に結界が張られており、往来できないようになっていたからなのです。
ルナは女神の力を使って人間界へと向かいました。ルナの側にはナーガとシルフェの姉妹がおりました。二人はルナと幼馴染みであり、女神パルテナに仕える
巫女でもありました。
ナーガはどんな傷でも治す癒しの力を持ち、シルフェはどんな重い物も持ち上げられるほどの力を持っておりました。
人間界で旅を進めている内、二人の若者に出会いました。
一人は戦士のバーン、そしてもう一人はスレイブと名乗る魔導士でした。二人も冥王クンドンを倒す旅の途中だということだったので、五人で旅を続けること
になりました。
五人は幾多の困難を乗り越え、それにつれて五人の友情は深いものとなっていきました。
ミュー大陸で最も高い山の頂に棲むレッドドラゴンの下に五人は向かいました。ミュー大陸が創成されてからずっと見守りつづけていたドラゴンでしたが、今
まさにその寿命が尽きようとしていました。
死の間際、レッドドラゴンはバーンに向かってこう言いました。
「バーンよ、おぬしのその瞳には、竜の吐く炎の息のように熱いものが感じられる。
わしが死んだ後、この身体を防具にするがよい。
平和になったミュー大陸を見れんのは残念だが、お主たちの力になれると思えばこんなに嬉しいことはない。」
バーンはレッドドラゴンの言葉通りに、亡骸を鎧と盾に仕立てました。それはまさに炎のように真っ赤な色をしていました。
それから五人は、深い森の中を歩きました。森の奥には、かつて知の神オーディーンに仕えていたという伝説の天馬が眠っていました。
天馬はスレイブに向かってこう言いました。
「そなたの真っ直ぐなその瞳は、まさに我が主であったオーディーンの生き写しだ。
よかろう、そなたに主の身に着けていた防具と杖を授けよう。
きっとオーディーンがそなたを守ってくれるはずだ。」
その防具と杖は、あらゆるものを司っていたオーディーンの叡智が凝縮されているかのような、深みのある青色をしていました。
五人は長い旅の果て、大賢者エトラムより託された封印石をもって、ついに冥王クンドンを封印することに成功しました。
灰色の空から光が差し込み、人間もエルフも歓喜の声で沸き上がりました。五人は英雄として讃えられ、人々は彼らを、白き女神、紅き竜、蒼き天馬。そして
知恵と力の巫女と呼ぶようになり
ました。
救世主たちの長い旅は、物語として後世にまで語り継がれていきました。
それからの五人はそれぞれの故郷に帰り幸せに暮らしたそうですが、五人とも同じ願いを抱きながらこの世を去ったといいます。その願いとは、『人間とエル
フの共存』でした。
二百年経った今でも、結界がなくなることはありませんでした。ところがミュー大陸には、二度目の悪夢が起こっていたのです。
そう、あの冥王が復活してしまったのです・・・。